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第3話※

3 「アレク! ただいま!」  ボクが仕事から帰ってくるなり、足元にじゃれついてきた彼の頭を撫でる。と、ふいにアレクがゲージに戻り、うんちをする。 「上手にできたね」 「わふっ!」  うんちを片付け、彼のお尻もキレイにふいてあげたところで、そばに落ちているしっぽも拾い上げ、清める。 「ほら、しっぽ、つけ直さないと。おいで、つけてあげる」  だがこれはいつものことなのだが、しっぽをつけ直すと、必ずボクにマウンティングをしてしまうのだ。二本足で立つと、ボクよりも大きい彼に床に押し倒され、腰を押し付けられてしまう。 「ッツ……」 その熱に、思わずドキリとしてしまうが、できるだけ冷静に対応する。 「アレク、ハウス」 「くぅん……」  あきらかに嫌そうな顔をするアレクにもう一度命令すると、しぶしぶゲージに戻ってくれる。ボクはその扉をそっと閉じ、素直に従ったアレクの頭を撫でてあげる。  しつけの本には、落ち着かせると良いと書いてある。だが、発散させないのも体に悪そうだ。 「お座り──いい子」  ゆっくりと柵の上から手を伸ばして、ボクは彼の股に触れる。 「ッ! ……ハッ、ハッ」 「ふふ、気持ちいいかい?」  上下にゆるゆると扱くと、柵に手を置き、快感に耐えるように目を閉じる。 「わぅっ、わぅうっ……」 「だめだよ。まだ我慢できるでしょ」  すぐにはイカせない。マウンティングの数を減らすためにも、ここはたくさん我慢させて、一回の満足感を高めておきたい。 「わぅっ! わふぅうんっ!」 「まだだーめ」 「うぅんっ」  口からよだれを垂らし、腰をなまめかしく揺らす。 「わふ、ぅっ……!」  青い瞳が、なにかをボクに訴えかけるように見上げる。 (ああ、ほんとにかわいいな──) 「いーよ。イッて」  強く握りこんで手の動きを速めると、腰をがくがくと震わせてアレクが果てる。 「ふふ、上手。いっぱい出たね」  出すだけ出したら眠くなったのか、ゲージの中の犬用ベッドに丸くなる。  ボクは水を入れ替え、ドッグフードをお皿に盛り、出入りできるように扉をあけておく。 「ちょっと、お風呂に入ってくるね」  寝入りばなの愛犬にそう声をかけ、ボクはいそいそとバスルームへ向かった。  アレク──気持ちよさそうだったな。  風呂場でシャワーを浴びながら、先ほどのアレクの気持ちよさそうな様子が頭から離れない。 「んっ……」  ボクは昔から、感情に溺れることができないことが、なによりもコンプレックスだった。そう思いつめていた時期に、なんでもいいから昂りを経験したくて試しに買ったエネマグラを、ボクはときどき使っている。 「んっ……はっ、ぁっ」  久しぶりだから、気持ちがいい。とはいえ、道具を使うことが気恥ずかしく、ボクは風呂場の電気を消し、シャワーを出しっぱなしにしながら、壁に片手をつき、前をゆっくりと擦り上げる。 「……ぁっ、ぅ、んんっ」  前に触れながら、後ろにきゅっと力を入れるのを繰り返していくと、だんだんと気持ちがいいところに当たって、射精感が高まっていく。 「ぁ、いくっ……!」  だが出してしまえば、ひどくむなしくなる。 (こういうところはボクも動物的だよな)  汚れた手のひらをざーっとシャワーで洗い流す。だがとりあえずスッキリはした。 「お昼寝はもういいの?」  バスローブ姿のままソファに座ると、目が覚めたアレクが隣に飛び乗ってくる。前足と顔をボクの太ももにのせて、もう一度、気持ちよさそうに目を閉じる。そのかわいい仕草に、ボクは胸がきゅんとしてしまう。 「アレク……かわいい……」  ボクは思わず、彼の額や、すっと通った鼻筋にキスを落とし、さらさらの毛並みを全身で堪能するように抱きしめる。  アレクとの出会いは、数か月前、ボクの家の前で倒れていたところを介抱したのがキッカケだった。そこからなつかれて、一人暮らしに少々寂しさを感じ始めていたボクは、彼を飼うことに決めたのだ。  だがよほど嫌な目にあったのか、アレクはボクに拾われてからずっと、一度も外に出たがらない。携帯で写真を撮ろうとしても逃げてしまうほどだ。それでも、ボクだけになついてくれる彼が愛おしくてたまらない。 「好きだよ……アレク……」  青い瞳に吸い込まれるようにキスをすると、興奮したアレクに飛びつかれてしまう。 「ちょ、だめだよっアレクッ!」  もみ合いになり、逃げようと背中を見せたのが間違いだった。 「ちょ、アレクッ!?」  前足でボクの腰を挟み、お尻にこすりつけてくる。 「っ、ぁ、だめだよっ、ちょっと」  押しのけようと暴れても、成人男性ほどある巨体はびくともしない。それどころか、鼻先でバスローブの裾をめくられてしまい、お尻の割れ目にアレスのソレが差し込まれてしまう。 「ッ!? うそっ」  さっき抜いてあげたというのに、愛犬のソレが硬く勃起しているのがわかり、ボクは焦る。なにせ、そこはたった今ほぐしたばかりでやわらかい── 「ぁ、だめっ、入っちゃ……んはあっ♡!」  ずぷうっと熱くて太いものが、そこに侵入してくる。 「んぁあっ! やっ、ぁあ、だめっ、いぬと、りんりてきにっ、うああっ」  初めての肉の感触は生々しく、じゅぼじゅぼと音を立てて、ボクの中をかき回す。 「はぁ、ぁあっ、あー! あれくっ、はうすっ! ハウスぅっ」 「ハッ、ハッ!」  だが、一向に言う事を聞いてくれない。それどころか、粘膜が擦れて熱が生まれてしまい、動物の本能に火がついたのか、アレクがバカみたいに腰を振ってくるからたまらない。自分のペースで手加減していた前立腺を、ごりごりと無遠慮に押しつぶされてしまい、強い快感に身体中に電気が走り、涙があふれてしまう。 「ぁあっ、だめっだって、こんな、きもちぃの、やだあっ」 ぬるついた棒がボクの中で硬さを増し、本能的に孕ませようと膨らんでいくのがわかる。 「ふぁっ、あ、だめっ、なかっ、出しちゃっ……ざっきん、とかっ い、ぬの、いぬのせーえきっ、ぜったいからだにわる、いよおっ!」  だがのしかかられ、腰を振りたくられて、ボクの前もソファに擦れて限界だ。 「ああやだ、あれくっ、あれくう、だめって、抜いてよおっ、あ、あ、あ、あっあああああ!」  ばちゅばちゅとお尻にぶつかる音が速くなり、ボクの一番奥で、どくんっと弾けて萎む。熱い精液が注ぎ込まれ、ボクはしばらくぼう然としてしまう。 (愛犬と……ヤっちゃった──)  それも、めちゃくちゃ気持ちが良かったなんて、誰にも言えない。 とはいえ、雑菌や感染症が怖いボクは、お尻をさんざん洗浄するハメになってしまった。 (もう……アレクの前で薄着は危険だ) 「くぅ~ん……」  ボクの機嫌が悪いのがわかったのか、アレクがベッドに乗り、ボクの頬をぺろぺろと舐めてくれる。いつもはゲージで寝るようにしつけているのだが、こう甘えられるとボクは弱い。 「もうあんなことしちゃだめだからね」  伝わっているのかわからないが、とりあえずそう言い、一緒のベッドで眠る。寝室を暖房で温めているとはいえ、まだ肌寒く、アレクの体温が心地いい。 (ああ、ほっとする──)  幸せ過ぎて怖いくらいだ。 それなのに、どうしてだろうか。この言い様のない不安は──何か、忘れている気がする。思い出さなければいけない、とても大切なこと──。 (いいか、また明日考えれば──)  アレクを拾って、ボクは幸せな毎日を過ごしているのだから──。

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