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第2話-7 「心配してくれたの?」
結局、春はバニラ味を選び、秋は抹茶味を選んだ。
二人並んでそばのベンチでアイスをつつく。
秋はイタズラっぽい顔で、ほら一口、と自分の抹茶味のアイスを差し出した。
すると春はじっと秋の目を見てから、徐にアイスをスプーンで掬い、口に入れた。
表情を変えずに、アイスを溶かすように口を動かす春に、どう?と秋は尋ねる。
「…苦い」
確かにアイスは本格的な抹茶が使われていて、風味が豊かだ。しかし、苦いと言えるほどではない。むしろ、秋にとってはかなり甘く感じた。
秋はその春の言葉に思わず吹き出した。
ム、と口角を下げ苦い顔をする春を見ながら、秋は笑いながら言う。
「お子ちゃまだ」
春は表情を変えず、じっとまだ口に残ってあるであろう抹茶に少しだけ眉を寄せている。
「これで苦いなら、コーヒーとかも飲めない?」
春はこくりと頷いた。
秋は春の意外な一面を知って嬉しくなり、続け様にじゃあゴーヤは?ピーマンは?などと、苦味のある食べ物を挙げていく。春はそのほとんどに、小さく眉をひそめて首を振った。
秋はそれにケラケラと笑う。
すると春が少し目を細めて、秋は?と聞いた。
え?俺は…と言いかけて、秋はハッと春を見る。
「秋って呼んだ?!」
すると春は小さく笑う。
「呼んだ」
秋は嬉しくて、思わずにこぉ、と大きく笑ってしまう。
そして、もう一回!もう一回!という秋に、なんでよ、と笑う春。何度もそうお願いすると、用事が出来たら呼ぶよ、と春は言った。
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