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第4話-6 「好きな人いるの?」
そうしてひとしきり遊んだ後、ふらっと出た教室の横にあるバルコニーで、秋は春に思い切って質問する。
「春は...好きな人とかいるの?」
すると春は何度か瞬きをした後、「秋はいるの?」と静かに聞き返してきた。
秋はそれに、「いるよ」を返事した。
すると春は「ライブでも言ってたもんね」と言った。
そうして春はそっと黙り込んだ。
春のいつもの癖だ、と秋は思った。
春は決まって、答えたくない質問には質問で返して、
相手の返事を聞いてうまく誤魔化すのだ。
秋はこれまでたくさん春に質問してきたから、それを分かっていた。
これ以上踏み込んでこないでね、とでも言うかのような、春の優しいサイン。
いつもならそこで引き下がる秋も、今日はそれが出来ない。
再び、「春は?」と秋は尋ねる。
春は何も答えず、きゅっと口角をあげて微笑み、秋から目線を外した。
「いる?いない?」
春はしばらく黙った後、目線を外したまま、静かに言った。
「・・いないよ」
秋はそう言われ、がっかりした。
まさか春が自分のことを好きだなんて思ってはいなかったし、
だから好きな人がいたらいたでそれはそれで最悪だと思うんだろうけど。
でもいないのであれば億が一、
「春の好きな人が自分である」という期待すら抱けないことに落胆したのだ。
「そっかあ...」
秋はそう俯きながら呟いた。
沈黙が続く。
居た堪れなくなった秋は「そろそろ帰ろっか」と春に声をかけた。
春はそれにうん、と静かに頷き、二人で教室に戻った。
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