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第4話-7 「好きな人いるの?」
秋は先ほどの春の返答に落ち込んでしまい、何も話せず、ただ静かに帰り支度をしていた。
するとふと春が「秋」と名前を呼び、振り返ると、春は自分の頬を指差した。
え!?何!?と秋が動揺していると、
「ペンキ、ついてるよ」と春が言った。
ええ!?と秋は急いで手で拭おうとするも、
すでに乾いているので意味がない。
そんな秋を見て、肌弱い?と春は聞いてくるので、え、全然…?と返事をすると、春は自分の鞄からウエットティッシュを取り出し、それを手渡してくれた。
それを受け取り、春に指定された頬を拭う秋。
春はそれを見守ってくれて、もうちょっと右かな、とか言葉で指示してくれている。
でも拭うたびにペンキが溶けて逆に広がっていくので、
それを見かねた春が、「やっていい?」と、
秋の手からウエットティッシュを受け取り、秋の頬を拭ってくれる。
秋は思わず息を止めて、じっと固まって春の顔をじっと見つめている。
ふと春の目線が秋の目に移り、ふっと笑って言った。
「息はしてていいよ」
あ、うん、とこれまで息を止めていたことに気づいて咄嗟に呼吸する秋。
そのまま微笑みながら春はペンキを拭ってくれ、
その後「うん」と短く呟き、すっと二人の距離は離れた。
そして「じゃあいこっか」と、春が振り向いて教室の扉に向かうとき、
秋は高鳴った鼓動のまま、衝動的に「あのさ」と春を呼び止めた。
そして、振り返った春の顔を真っ直ぐ見て、秋は大きく息を吸い込んだ後、言った。
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