36 / 209

第4話-9 「好きな人いるの?」

「…それ、勘違いだと思うよ」 秋は春の思いもよらぬ返答に、呆気に取られる。 「勘違い…?」 すると春は微笑みを浮かべたまま、「僕、男だよ」と言った。 「え、知ってるけど…」 
「うん だから、勘違いだと思うよ」 
そう言って、春はそのままするっと振り返って、再び教室の外へ歩き出していってしまう。 予想もしていなかった返事と、置いて行かれてしまったことに呆気に取られていた秋。 だが次第に込み上げてくる感情のまま、春を追いかけて大きな声で呼び止めた。 「ちょっと待ってよ!」 春が背を向けたまま立ち止まった。 「勘違いとかじゃないから!」 「俺、ずっと春のことばっか考えちゃって」 「今日だってすごい….さっきのとかすごいドキドキして」
 
すると春はふっと振り返り、いつもの微笑みを浮かべ、答えた。 「ごめんね、距離、近かったもんね」 
「別に好きじゃなくても、そういうのあると思うよ」
 
そう言って再び歩き出す春に、秋はついに春の腕を掴み、引き留める。 「待ってよ!」 
つい、春を掴む腕が強くなる。 秋は思わず息が震える。 「...好きじゃないって振られるなら分かるけど」 「俺の気持ち…勝手に勘違いにしてなかったことにするのはおかしいよ」 
「振るなら…ちゃんと振ってよ」 「…男だからって...馬鹿にして...そんなふうに言わないで」 すると春はそう言った秋をじっと見つめてから、ふっと視線を落とした。 そしてしばらく沈黙が続き、春が重苦しく口を開いた。

ともだちにシェアしよう!