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第5話-5 好きでいる理由

「誰かを真剣に好きだって...大切だって思う時間に、意味を見出すことって死ぬほど贅沢なことだと思うよ」 松山はふっと息を吐き、静かに続けて言った。 「俺はゲイだからさ、どんなに好きな人と一緒になったって、子供は産めない。子孫を残せないわけ。 別に子供が欲しいなんて思ってるわけじゃないよ。 ただ、好きな人と一緒にいたいって思ってるだけ。 なのに、それすらもさ、他人からは気持ち悪いって馬鹿にされたりしてさ。 ...まあ分かるよ。 人類からしたら、種の保存に貢献しないゲイカップルなんてさ、資源を無駄にするだけの出来の悪い有機物だし。」 秋は思わず黙り込む。 松山は少し微笑んで、でも、すごく寂しそうな顔して、言う。 「そんな俺からしたら何も生み出せない恋愛に意味を見出すなんて......怖くて出来ない。 そんな贅沢なことはないって思ってる。」 はあ、と大きく松山が息を吐き、そして再び笑って秋に言った。 「ま、何が言いたいかってさ」 「ぜーんぶ意味なんてないから、何も考えず、好きでいるだけ好きでいれば?ってことです」 
「....いや、話重すぎて...そうとは思えなかったけど」 そう言った秋に松山はははは、と笑う。 でもね、と松山は言った。 
「秋はただ、春を好きって気持ちだけで行動してるんだろうけど」 
「この先、本当に春と付き合うって、男と付き合うってなったら、絶対にぶつかる壁だと思うからさ」 「春の言った通り、もし"勘違い"にできるんなら、まだ傷の浅いうちに勘違いにしておいた方がいいかもよって話。」 秋はその言葉に、何も言えなかった。 春はどうして、勘違いだと、秋の気持ちをそう言ったのだろう。 黙り込んでいる秋を見て、松山はポン、と優しく肩を小突いた。

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