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第8話-9 泊まっていきなよ

部屋に戻ると、春は台本を読んでいた。
 ふ、と台本から顔をあげ、こちらを向く。 「あ、良いよ良いよ、読んでて」 すると、もう少し先のだから、と本を閉じた。 秋は春の隣にふと腰掛ける。 
が、秋は何も話せない。 すると春が、尋ねてきた。 「本当に泊まって、大丈夫?」 それに秋が「えっ、え、なんで?」と聞き返すと、
「予定あったかなって思って」と春は言う。
 「え、ないない、なんもないよ、なんで?」とまた聞くと、
「・・・いや、秋が大丈夫なら良いんだけど」と春は言った。 秋はその言葉の意味を思わず考え込んでしまう。 もしかして、自分がシャワーを浴びている時、なにか考えていたのではないか。 自分のことが好きだと言った男が、こうして家に泊まりに誘った。 一度はそれに応じたものの、やはりまずい、と思ったのではないか。 春は秋と、「友達でいたい」と言った。 きっと、秋にそうした感情は抱いていないのだ。 それでもこうして会ってくれるのは、秋が友達の一線を超えないようにして、あくまでも"友達"関係を続けているからだ。 そして、「もし帰るなら全然、あの、大丈夫だけど」
と、きわめて何気ないように春にそう言った。

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