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第11話-7 嘘つき

秋はこの時、もうすでに何も考えられなくなっていた。 ただ、目の前にいる春と自分の衝動に身を任せ、
自分が放つ言葉さえ言い出してから理解するような。 「…まつ毛」 「もう一回、触っていい?」 考えるより先に、秋はそう言葉を放っていた。 春はまた秋から目線を外し、何度か瞬きをして、
そして静かに瞼を閉じた。 秋は微かに春の頬に触れていた手を、
自分の意思でそっと春の頬に這わせた。

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