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第11話-8 嘘つき
春は目を閉じたまま。
そして、秋は誘われるように春の唇に自分の唇を重ねた。
優しく唇が離れ、
鼻と鼻があたるほど近い距離で
秋と春の目線が交差する。
春の瞳は微かに揺れているようだった。
そして春は秋を見つめたまま、小さくつぶやいた。
「…嘘つき」
秋はそれが軽蔑や嫌悪の感情が含まれた言葉だとは思えなかった。
「ごめん」とつぶやくように無機質に言った後、湧き上がった感情に抗うことができず、
頬に触れていた手を首元に移し、
そして春を手繰り寄せ、再び唇を重ねた。
春がそれに抵抗することはなかった。
一度。そしてもう一度。
くぐもった吐息が肌をすり抜ける。
春がそっと瞼を開ける。
長いまつ毛が秋の頬を微かに撫でた。
秋は目線を合わせ、確かめるように、試すように、
唇を少し開き、そっと息を流すようにキスを重ねた。
春は薄く開いていた目を、再びそっと閉じた。
秋はそれを合図に、そっと舌先を伸ばした。
迷うように、探るように。
そっと春の唇をなぞる。
そして、ほんの一瞬、春が息を吸うのと同時に、
春の唇がふわりと開いた。
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