99 / 209

第11話-9 嘘つき

舌が触れ合う。
 それに対して、春の舌がわずかに動いた。 
逃げるのではなく、こちらに寄せるように。 
なぞるように、離れて、また触れる。 息を交わすたび、深くなる。 無意識のうちに、身体が春の方へ吸い込まれていく。
 押し出されたように、春がソファの座面に倒れた。 その瞬間、唇がふっと離れた。 秋が見下ろす視線の先で、視線は秋に向けられたまま、
春は浅く、そして早く、吐息を漏らしていた。 二人の吐息だけが、部屋に響いていた。

ともだちにシェアしよう!