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第16話-5 聞き分けのいい子

帰宅してからもそのことが頭を離れず、迷った挙句、秋は松山に電話する。

 松山に特に何も伝えず、「向井さんって知ってる?」と言うと、そりゃ知ってるよ、と松山は答えた。 すごい売れっ子の作家だから調べてみたら?知ってるドラマとかだらけだと思うよ、と続けて松山は言った。

 秋はオーディションを受ける時にすでにその事を調べていた。 それは知ってる、そう言うのじゃなくて、その…と吃っていると、松山がふと、なんかされたの?と聞いてきた。 

それに秋は、えっ!と大きな声をあげて、え、あの、あっくんもなんかされたことある?と恐る恐る尋ねた。 

すると松山は、まあ、あるけど、と軽く言った。 
そうして秋は、え、俺さ…と先ほどあったことをつい話してしまった。

 秋の話を聞き終わった後、別に珍しいことじゃない、と松山はあっけらかんと言った。 「ああいう力のある人で俳優とか女優に手出す人とか山ほどいるからさ。別に向井さんが特別ってわけじゃないよ。まあ若い男しか手出さないけどね、向井さんは」 「なんでみんなそれバラさないの?」 「まあ力あるから」
 松山は声色を変えず、淡々とそう答える。

 「出たいじゃん、人気ドラマに。だからじゃない?」 でも…と秋は言う。 そんな秋の返答を遮り、松山は続ける。 

「本当に面白い脚本書く人だしヒットさせるし、出たらその俳優みんな売れていくから、局も事務所もなんも言えないっていうか」

 そうしてしばらく話を聞いた後、秋は徐に春に2人で会うなと言われたことを打ち明けた。 すると変わらず淡々とした様子で、松山は言う。 「まあ春も向井さんのドラマめっちゃ出てるからね。そりゃ多少はあるんじゃない?そういうこと」 それを聞いて、秋は思わず声を上げる。


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