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第16話-7 聞き分けのいい子

しばらく経って、秋がドラマの仮曲を完成させ、それを送った次の日。

 向井からまた個人的に連絡が来た。 

「曲について話があるから」とまた日付を指定され、秋は迷うも、覚悟を決め、今度は1人で向井の元へ向かった。 
今回は前置きもなく、すぐに秋はソファに座らされた。 そして向井は隣に腰を掛け、そして前回と同じように、そっと顔を撫でた後、その手を這わせ、向井は秋の太ももを撫でた。 

その時、秋があの、と声を上げた。 

「あの 春にも同じことしてるんですか?」
 秋の声は少し震えていた。 向井はそれに表情を変えず、同じことって?と秋に尋ねた。 

「こういう…その、触ったり、とか」

 「さあ、どうかな」 
そう言った後、向井は試すように秋に聞いた。

 「そうだったらどうなの?」 秋は震える声で、いやです、と言った。 

それに向井はニヤリと笑い、どうして?と聞いた。

 「友達、なんで」

 「へえ」
と向井は呟くようにいい、その後、で?と低い声で言った。 そして続けてこう言った。 

「ここに来たなら、覚悟してきたもんだと思ってたけど」 「分かると思うけど、今日の秋くんの対応で、この仕事、どうなるか変わるけど」 
そういってまた秋の太ももを撫でた向井の手を、秋は強く払った。 「…いいです、主題歌、出来なくていいです」 そう言った秋をじっと見てから、向井はへえ、そう、と言い、そのままソファから立ち上がった。

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