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第16話-9 聞き分けのいい子
そう言った向井の笑みに、思わず震えるほどの怒りと軽蔑を感じた。
「まあでも」
向井は言った。
「君と違ってあの子は随分聞き分けがいいからね、昔から」
そう聞いた秋は、怒りで部屋を飛び出した。
部屋を出た瞬間、秋は春に電話をかける。
何度も何度も、出るまで掛け続けた。
そうして30分ほど経った頃、春から折り返しがかかってきた。
「もしもし、ごめん、出れなく…」
「今どこにいる?」
「え?撮影の現場にいるけど…」
「終わったら少し会えない?」
「え、いい…けど、今日遅いよ」
「いい どこ?何時に終わる?」
「え?」
「行くから、そこ」
「あ、いや…僕が行くよ、秋の家。いいなら、だけど」
「分かった 待ってるから。何時でもいいから」
「…分かった でも…どうかした?」
そう尋ねる春には答えず、秋は言った。
「今日はアイスいらない」
「いらないから、終わったらすぐ来て」
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