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第18話-3 壱川春
"何が好き?
"
"休みの日は何してるの?
"
そうやって質問されるたび、春はそれらに答えることを重荷に感じていた。
向けられる期待の眼差し、それに応えなければならない、とその度に春は思うからだ。
答えた時、「へえ、意外」などど言われると、春はどきりとした。
相手の考え求める自分で要れなかったことに、そして、自分が明かしていない自分に、気付かれてしまうのではないか、と不安に駆られるのだ。
物心ついた時から、春は男性が好きだった。
ぼんやりとした違和感に、
春はそれを誰にも言えなかった。
幼い頃から自分にかけられる期待のハードルが、人よりも高いことに、春は気づいていた。
9歳でこの世界へ飛び込んだ時、
春はどこか救われた気持ちになった。
初めてドラマで役を演じた時、自分以外の誰かになって決められたセリフを話して動く、自分ではない他人でいることのその気楽さに春は救われたのだ。
役となり傷付いた痛みが、自分自身の本当の痛みや感情を忘れさせてくれた。
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