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第18話-4 壱川春

そうして中学生になり、デイプロに加入しアイドル候補生として活動を始めるとなった時、春は「"壱川春"を演じる」と決めた。 みんなが思うような、期待するような、なんでも出来て、優しくて、完璧な、そんな"壱川春"を。

 ボロは出したくなかった。 

だから、春は誰のどんな質問にも可能な限り、明確な返答をしなかった。 
自分から人に話しかけることも、そうして人に踏み込んでいくことも、避けていった。


 ただ、人が思う自分をなぞるように、その道を歩く。

 なりたい自分、夢や目標などはない。
 ただ、そうあるべき自分でいるだけ。 
向けられる賞賛の声、あるいは批判や中傷、
それらにはほとんど興味がなかった。

 他人から向けられる好意にも、
そしてその好意から生まれた悪意にも。 
春は気付かないふりをする。


 そうしていくうちに、春は次第に、自分が何を好きだとか、今どう感じているのかだとか、そういうことが分からなくなっていた。
 何が起きても、どうとも感じない。


 そんなはずだったのに。




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