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第18話-8 壱川春
結局その日の撮影は、ほぼ時間通り、23:40頃に撤収となった。
春はマネージャーの送迎の車に乗り込み、あの、と声を上げた。
「あの…今日、歩いて帰ってもいいですか?」
「え?でも遅いし、それにいつもよりかはせっかく早く終わったんだしすぐ帰って家でゆっくり…」
「ちょっと…頭を整理したくて」
滅多に言うことのない春の小さなわがままに、マネージャーは渋々頷き、自宅に着いたら連絡するように、と春に念押しし、帰って行った。
自然と足は秋のワンマンライブの会場に向かう。
とうにライブは終わっている時間だ。
そうわかっているのに、次第に歩く足は速くなる。
少し息を切らして会場に着く。
ライブハウスの入り口には今日のライブの看板がまだ出ている。
"今瀬秋 ワンマンライブ"
ちょうどその時、ライブハウスの店員らしい人が看板を下げに来た。
写真撮りますか?と春に尋ね、それに春は慌てて首を横に振る。
すると、彼は気軽に話しかけてくれる。
「間に合わなかった感じですか?」
「あ、いや…まあ、はい」
「あちゃー、残念すね。今瀬くん、良いっすよね。今日もすげー良かったっすよ!」
「そうですか」
「あ!そだ、ちょっと待っててください」
そう言って彼は足早にライブハウスへ一度戻り、すぐ一枚のハガキを持って春の元へ戻ってきた。
「これ、今日来た人に配布された新曲のデモの音源で!いや、めっちゃ良かったんで、ぜひ」
「え…あの…良いんですか?」
「はい!だって好きなんですよね?今瀬くんのこと」
その問いに春は固まる。
ただアーティストとして好きかを問われているだけだ。
深い意味はないのに。
ふっと息を吸い込んで、春は、はい、と答えた。
彼はニッと笑った。
「じゃあ、どうぞ」
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