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第18話-10 壱川春
帰り道、言われた通りに曲を再生する。
数秒の静かなノイズの後、
優しいギターのイントロが流れ始めた。
一音一音丁寧に、優しく柔らかく。
飾らない、素朴で誠実な響き。
そしてすっと静かに息を吸い込むのが聞こえた後、
優しく穏やかで角のない、秋の歌声が耳に入ってくる。
言葉の一粒一粒を、春は聞き逃さないように、
そっと聞き耳を立てる。
春と秋の過ごした時間をなぞるように。
秋の言葉で描かれたその時間に、その想いに。
思わず春はふっと眉を下げた。
"好き"
何度も散りばめられたその歌詞に、
春はその度に唇を噛み締める。
あの夜、春が見せた不安を、恐れを、
それを全部、包み込むように。
それでも、春が好き、ただ好き。
秋がそう言って、目の前で微笑んだようだった。
最後のギターの一音が鳴ったあと、
春は思わず はぁ、と震える息を大きく吐き出し、
その場でしゃがみ込んだ。
途端、とめどなく涙が溢れた。
小さく息を漏らし、肩を揺らす。
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