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第18話-11 壱川春

秋に会いたい。

 秋に触れたい。 ――秋が好きだ。 込み上げてくる感情を、春はこの時、
否定しなかった。 春はそのまま、
涙が止まるまで、
ずっとそうしていた。

 秋の夜風が春の濡れた頬をそっと撫でた。 

優しく、少し暖かい、
あの日頬に触れた秋の手のひらのようだった。

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