150 / 209
★第19話-1 今瀬秋
上京してきてから3度目のワンマン。
結局あの日、春は来なかった。
忙しいのは分かってる。
最初から期待なんてしないと決めていた。
でも、ライブが始まってから終わるまで、
秋はずっと、客席にその人影を探してしまった。
ライブを終えて家に帰ってから、
秋は一人泣いた。
春から連絡はない。
そういえば、日付さえ伝えていなかった。
もしかしたら、俺の連絡を待っていたのかも、と
秋はこの後に及んでまだ、そんな期待をしている自分にひどく嫌気がさした。
今日だって知らなかったのかも。
場所だってわからなかったかも。
それに忙しかっただろう。
仕事でどうしても来れなかったのかも。
そんな言い訳が頭をよぎっては、秋はそうじゃない、とそれを否定して、涙をこぼした。
あの日春が言った言葉を頭の中で反芻する。
「秋はそうじゃないでしょ」
「キス以上のこと、できないでしょ」
「これ以上踏み込んでも、お互い幸せになれないよ」
震える声で、春はそう言った。
「僕は男が好きだから」
春のその告白に、秋は嬉しさも悲しさもなかった。
ただ、その後に続いた、「どう頑張っても無理だ」と言った言葉に、酷く傷ついた。
ともだちにシェアしよう!

