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★第19話-1 今瀬秋

上京してきてから3度目のワンマン。 結局あの日、春は来なかった。 忙しいのは分かってる。 
最初から期待なんてしないと決めていた。 

でも、ライブが始まってから終わるまで、
秋はずっと、客席にその人影を探してしまった。 
ライブを終えて家に帰ってから、
秋は一人泣いた。 

春から連絡はない。 そういえば、日付さえ伝えていなかった。 

もしかしたら、俺の連絡を待っていたのかも、と
秋はこの後に及んでまだ、そんな期待をしている自分にひどく嫌気がさした。

 今日だって知らなかったのかも。
 場所だってわからなかったかも。
 それに忙しかっただろう。
 仕事でどうしても来れなかったのかも。

 そんな言い訳が頭をよぎっては、秋はそうじゃない、とそれを否定して、涙をこぼした。 
あの日春が言った言葉を頭の中で反芻する。 「秋はそうじゃないでしょ」 
「キス以上のこと、できないでしょ」

 「これ以上踏み込んでも、お互い幸せになれないよ」 震える声で、春はそう言った。 「僕は男が好きだから」 春のその告白に、秋は嬉しさも悲しさもなかった。
 ただ、その後に続いた、「どう頑張っても無理だ」と言った言葉に、酷く傷ついた。

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