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第19話-3 今瀬秋

いつもじっと優しく微笑んでいるところ。

 人の話に静かに耳を傾け、
そっと反応して小さく眉を下げる仕草。 ゆっくり動く視線。

 喉を小さく鳴らす笑い方。 

何か考える時にする、伏し目がちに瞬きをする癖。 

優しく「うん」って頷くいつもの相槌。 

丁寧にゆっくり言葉を選んで話すところ。 時たま秋の冗談に付き合ってくれるときのいたずらっぽい表情。 苦手な食べ物を食べる時の顔。 

朝が弱いところ。 

寝ぼけているときのいつもより柔らかい声。

 綺麗な箸の持ち方。

 丁寧にゆっくり、
けれど大きな一口でご飯を食べるところ。

 秋の表情を伺う時の眼差し。

 触れた時の体温。 
ひとつひとつ、そうやって秋は思い返して、実感する。

 そのどれもが、春がする全ての仕草や行動が、秋の心を掻きむしるような、くすぐったいような、心地よいような。 全てが秋にとって特別だった。 そうやって春のちいさな何気ない仕草を愛おしく思ってしまうこと。 
春に会いたいと思う気持ち。
 そして、春に触れたいと思うこと。 
キスをした時に感じた抑えられない欲も。

 そういうのが全部、
好きじゃないなら、
恋じゃないのなら。 

他の何にも、恋以外には。
 それは例えようがなかった。 
確かに、恋だった。

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