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第19話-4 今瀬秋

――「春は俺のことどう思ってるの?」 最後に問いかけたその答えを、
まだ秋は聞いていない。 
春のあんな表情を、秋は初めて見た。 いつもの優しい微笑みなんてそこにはなくて、
その表情に余裕はなく、
大きな恐怖と不安と、どこかすがるような憂いが揺れる大きな瞳で、春はじっと、秋を見ていた。 秋の行動が、言葉が。 
春の奥底にある深いところまで届いていることは、
そんな春を見れば分かった。 
春と最後に言葉を交わしたあの夜のことを思いながら、秋は春に届けたいと思う一心で新曲を書き上げた。 でも、それを春に聴いてもらうことさえ出来なかった。 
会いたい。 今すぐに春に会いたい。 ――春が好きだ。 
言葉にそう呟いてみて、
秋は思わず嗚咽を漏らして泣いた。

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