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第20話-3 好きなままでいいよ

「な、なんで、そう、思うの?」 「なんでって…」
 そう言って白石は呆れるように笑った後、言った。 「ワンマンにいたよ?私。新曲、聞いてたんだよ。」 「秋くんのMC聞いて、あの曲を聴いて…。ずっとね、秋くんは誰が好きなんだろう、その子に勝てるようにならなくちゃ、もっともっと、秋くんに意識してもらえるくらいにさ、可愛くならないとって思ってたけど」 秋はあの日のMCを思い返す。

 昂った感情のまま、何も決めずに、
正直に話した言葉たち。 ―― 秋の言葉を待ち、観客は静かに息を潜めた。 
秋が静かに話し出す。 「俺、すごい好きな人がいて。
高校入ってからずっと、なんですけど」

 「最初は、あんまり、よくわからなくて…」 

「そんな、好き…とかじゃなくて、恋とかじゃなくて、そういうんじゃなくて、って思ってたんですけど」 

「でも…俺」 「その人のこと、ずっと目で追っちゃうし、話せたらいちいち嬉しいし、その人が笑ってくれるだけで、もう、もう…なんか、すごい嬉しくて」 観客はそう話す秋を見て微笑んでいた。 「でも」 「その人は、俺のこの気持ちは勘違いだっていうんですよ。」 そう話した途端、皆が表情を変えたのがわかった。 「そんなはずないよ、それは恋なんかじゃないよ、って。これ以上踏み込んでも幸せになれないって、そういうんですよ。」 「そうなのかな?って、俺、それからずっと考えてて。」 「でも…」 「確かにそりゃ…周りとは違うかもしれないけど、でも…」 「やっぱり好きなんですよね
絶対、好きなんです
じゃなきゃおかしいんです
全部、全部…説明がつかないんです」

 秋は息を吐き、もう一度深呼吸をして言った。 「俺は…
俺のこの気持ちを信じたいって、やっぱり思う
それに…
相手にも、その人にも、
それを伝えたいと思って、この曲を書きました。」 ―― 秋が黙っていると、白石が静かに笑って言った。 「壱川くんがライバルじゃあ、勝てっこないかなぁ」 秋はその言葉に、小さくため息をついて言った。

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