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第20話-6 好きなままでいいよ

秋は思わず言葉に詰まる。 
白石が続ける。 「私なら秋くんの自慢の彼女になれるよ。なってみせるよ。きっと好きにさせる。一番になんてしなくてもいい、壱川くんのこと、好きなままでいいよ。…お願い。」 
繋いだ白石の小さな手が、微かに震えている。 

秋は何も言えず、ただ白石の手を見つめている。 
春の言葉を思い出す。
 __「秋はそうじゃないでしょ」 

___「違うんだよ、全部 どう頑張っても無理なんだよ」 ____「やめよう、秋」   _____「これ以上踏み込んでもお互い幸せになれないよ」 

__『春は俺のことどう思ってるの?』 ______「知ってもどうにもならないよ」 


思い出すだけで、秋は胸が押しつぶされそうになった。 苦しい。 逃げ出したい。 この気持ちから、春から。 秋は息を呑み込み、つぶやくように弱々しく言った。 

「……ほんとに?」 白石の目に力が入るのが分かる。 「……ほんとに…それでいいの?」 

「春を好きなままで…それでもいいの…?」 「いいよ」 そう言って白石は握っていた秋の手をそっと離し、ゆっくりと秋に近づき、秋の胸元に身を預けた。 遠くで聞こえる生徒たちの笑い声。 
それよりも大きく、白石の鼓動を感じた。

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