166 / 209
第22話-3 向井聡
まるで作りもののように精巧な顔立ちと、春が醸し出す圧倒的な存在感に、向井は釘付けになった。
向井は吸い込まれるように春に近寄り、
そして声をかけた。
「どうも。脚本の向井です。」
春はふっと目線を上げ、向井の目を見つめた。
向井は思わず目を背けたくなった。
それほど、春の視線には独特のパワーがあった。
「壱川春です。よろしくお願いします。」
春は口角をあげ、ニコリと微笑んでそう言った。
あれ、と向井は思った。
春と初めて会ったとき、その驚くような完成度の容姿とは別に、向井の印象に強く残っていたのは、春が一度たりともニコリとも笑わなかったことだった。
少しも表情を変えず、ただ前を見てじっと立っている。
スタッフや共演者のどんな言葉掛けにも、簡素にはい、か、いいえ、のみで答え、ほとんど言葉を発することがなかった。
そしてやはり、少しも表情を変えなかった。
そんな春のことを、向井は遠巻きに眺め、
面白いと思っていたのだ。
向井が放つ世間話に、
春は変わらず微笑んで相槌を打つ。
ふと、向井は言った。
「僕ね、昔、君に会ったことがあるんだよ」
春はそれに、少し微笑んで、
あのドラマの時ですよね、と当ててみせた。
「あれ、覚えてるの?」
すると春は、お話はしていないですけど、あのドラマは向井さんが脚本をされていましたよね、と向井に尋ねた。
向井はそれに微笑み、言った。
「あの時の君、すごく印象に残ってたんだよ。君が少しも笑わないから」
春はその向井の言葉に、また少し微笑んだ。
向井は言った。
「撮影の後、少し時間あるかな?役について、君と、春くんと話がしたくて」
ともだちにシェアしよう!

