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第22話-8 向井聡
向井には、そういう相手が何人もいた。
気になる若手俳優やアーティストには、
仕事や金銭をちらつかせ、
そうやって事に及んでいたのだ。
誰も、向井の地位や名誉を汚すものはいなかった。
それだけ、向井はそういった相手にリターンを返しているつもりだった。
春は、そういった数多くの一人だった。
ただ、他と違ったのは、春がそれらの見返りを一切求めてこないこと、そして、春は事の最中、必ず向井を気遣うことだった。
言葉にはしないが、向井の様子を時折見て、気遣うような視線を向けた。
春は必ず、優しく丁寧に向井に触れた。
向井は、諦めていた。
誰かに対等に愛されることも、
それを望むことも。
しかし、春がそれを呆気なく崩していった。
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