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第22話-11 向井聡
向井はいつものように春に触れる。
抵抗はしない。
が、春のものに触れても、
いつものようにはいかなかった。
向井はため息をつき、「いい、口でやって」と、
春にそう指示する。
それに抵抗することなく、春はその指示に従う。
終わった後、春が再び「携帯返してください」と言った。
向井は黙って秋の携帯を渡した。
すぐに部屋を出ていく春に、
向井はひどく虚しい気持ちになった。
すぐに分かった。
春はあの子のことが、今瀬秋のことが好きなのだ。
嫌だった。
取られたくなかった。
望む全てを手に入れられなくとも、
春とのその時間を奪う今瀬を、心底憎く思った。
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