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第23話-5 寂しい

「俺が言ったのは、そういうことじゃない」 

「人の弱さを利用して、それに漬け込んだことに気持ち悪いって言ったんだよ」 

「春とあんたは違う」 ―― 



ふらついてろくに歩けない春を連れ、秋は必死に歩いた。

 途中見つけた公園のベンチに座り、春を寝かせ、その頭を自分の膝に置いた。

 変わらず、春は虚ろに目を少し開けている。 


秋はたまらず、堪えていた涙を溢した。 

涙が落ちて、春の頬に落ちる。


 春は虚ろな目で秋を見つめ、言った。 

「…泣かないで」

 その言葉に、秋は堪らず嗚咽を漏らした。 

春はそっと、秋の頬に手をやり、涙を拭う。 

秋はその手に触れ、包み込むように掴んだ。 

春はそれに、ただ何もせず、手を伸ばしたままだ。



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