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第23話-6 寂しい

春が言った。 

「…どうして泣いてるの?」

 小さく、確かめるようなその声に、
秋の胸は締め付けられる。 


大きく息を吸い込み、秋は言う。 「春は向井さんが好きなの?」



 春は表情を変えず、静かに言った。 


「…そうじゃないけど」 「僕は…向井さんを…嫌いにはなれない」



 春は続けて言った。 


「…寂しいんだよ」

 「ただ…寂しいんだよ」



 秋は問う。


 「春も寂しいの?」



 春はゆっくり目を閉じて、そうして再び瞼を開けて、秋の目に視線を移し、言った。 


「……寂しいよ」


 こぼれ落ちた秋の涙が春の頬に再び落ちる。 
それはまるで、春の流した涙のように見えた。




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