その日、秋は高校の卒業式を迎えた。

 ――春はいない。

 秋は、春が来れないことを事前に知っていた。 

それは、この日が春が所属する期待のアイドルグループのデビュー公演の日だったからだ。 


デビュー公演は今日から3日間連続で、一度で3万人ほどを収容する大きなアリーナ会場で行われる。 全公演分のチケットは発売日から早々にソールドアウトしていた。



 あの日の「ごめんね」という一言だけのメールに、
秋は何も返事を返していなかった。 

卒業式。
 隣は空席だ。

 春が座るはずだったその席を、秋はじっと眺めた。


 入学式のあの日の出会いから、今日まで。
 春のことばかり考えていたな、と秋は回想する。 


でも。



 それも今日で終わりだ。

 今日で同級生が終わる。


 これで本当に、 
春に会えなくなるのかもしれないな。 



秋はその事実に、
とても悲しく、寂しく、
そして、どこか、ほっとしていた。