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★第25話-1 帰らないで

急いで飛び乗ったタクシーで、
春が言ったマンションに駆けつけた。

 それは見上げるほど高いビルで、おそらく超高級マンションの部類に入るだろう。

 しかし秋はそんなことを考える暇もなく、マンションに駆け寄っていく。 すると、エントランスのドアの前、壁際にもたれ混むように人が座っているのが見えた。


 すぐにそれが、春だと分かった。


 秋は春!と大きな声をあげ、なんでこんなことにいるの!?ともたれかかる春を支えるように思わずしゃがみ込んだ。

 すると春がふっと目線をあげ、秋を見た。 

目の開きは甘く、焦点はぼんやり定まらない。 
涙で濡れたように潤んだ目をしていた。 

荒い息を漏らしながら、春が言った。 

「…初めて来るから…秋…分かるかなって…」 

その言葉に秋はくっと表情を歪ませ、春の腕を自分の肩に回し、春を支えるように立った。

 春は力が入らないのか、秋はそんな春を必死で支えながら部屋に向かった。

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