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第25話-4 帰らないで

そして手元の薬に目をやる。 

解熱剤以外にも、何種類かある薬を、秋は携帯で検索にかける。 すると、おおよそ普通の風邪や熱では処方されないような薬のようだった。 


「これ…」
と春に聞きかけるも、また話させてしまう、とすぐに口を閉じた。 しかし春は秋がなにを思ったのか分かったのか、小さな声で言った。 


「…汗が出ない……病気…らしくて…その薬」

 その春の言葉に、秋は思わず春の首に触れた。 


確かに、この高熱にもかかわらず、
春は汗ひとつかいていなかった。 

「これも飲む?」
 そう尋ねると、春はこくんと小さく頷いた。 

そうして先ほどと同じようにその薬を飲ませた。 


「…だから…」 


「え?」 

「うつらない…やつ…だから…安心…して…」 

秋の腕の中で言った春のその言葉に、
秋は思わずもう…と唸るように呟いた。 


「…そんなんどうでもいいよ」

 秋はそして、春をそのまま抱きしめた。

 耳元で春が息を吐く音が聞こえる。
 身体は驚くほど熱い。


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