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第26話-6 どうしたいか言って

秋はその言葉を聞いて、途端に顔を顰めた。 
涙がボロボロと零れ落ちる。


 春がそっと手を伸ばす。

 秋の顔に優しく手が触れた。

 春は秋の涙をそっと拭う。



 声を漏らして泣き出した秋を、
春は引き寄せて抱きしめた。 

秋も春を強く抱き返した。 



「…ほんとに?」

 「…無かったことにしない?」

 秋は震えながら尋ねる。 
春は静かに言う。



 「…しないよ」 

「……しなくて…いいんだよね?」 



その春の返事に、秋は何度も頷く。 


「いい、しなくていい……しないで」


 「…うん」

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