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第6話

(愁視点) 目が覚めたとき、タカヤはいなかった。 代わりにキッチンの方から、
コーヒーメーカーの音と、いい香りが漂ってくる。 (……昨日の夜、ほんとに現実だったのか) 
体にはまだ熱が残ってる。
 肌に刻まれた指の感触も、
声を上げた記憶も、全部リアルすぎて。 タカヤが戻ってきた。 
手にはコーヒーカップを2つ。 「おはよ。よく眠れた?」 「……あ、うん。」 「起きたら、いなかったからビックリした?」 「……まぁ」 「朝ごはん、一緒に食べにいく?」 「いや。帰るわ。仕事溜まっててさ」 そう言って、俺はそそくさと服を着る。 
背中に視線を感じた。 「……帰るんだ?」 「うん…。」 「……そっか。じゃあ、また誘ってもいい?」 「………うん」 タカヤは、笑ってる。 
でもその目は、まっすぐ俺を見てた。 (……やめてくれ。そうやって簡単に、距離詰めてくんなよ) 「また連絡するね。」 (……なんだよ、それ) まるで、“また会うことが当たり前”みたいな言い方。 俺は扉を開けて、
振り返らずに、出ていった。 でも── 
心のどこかで、もう一度あの手に触れられたくなってる。 (……馬鹿みたいだ、俺)   ──そして水曜日、 俺のスマホに、またメッセージが届いた。 『金曜、空いてる?』   (……また、会える)

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