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第9話

湯船の中、 手が触れそうで触れない距離。
 ただ隣に座っているだけなのに、
 胸の奥がざわざわして落ち着かない。 
肩まで浸かると、 湯の熱とタカヤの存在感で胸が高鳴る。
 横を見れば、湯面からのぞくタカヤの肩幅と胸筋。
 水滴を弾く肌が眩しくて、思わず目を逸らす。 「顔、赤いな。熱い?」
 「……そうかも」 笑ったタカヤが、俺の肩に腕を回す。
 背中までじんわり熱が広がる。
 ただ隣にいるだけなのに、落ち着かない。 湯けむりの向こうで、
タカヤが湯船から上がってバスタオルを肩にかける。
 しっかりついた胸筋と腹筋が照明に照らされ、 
水滴がつーっと流れ落ちて── 思わず息を呑んだ。 (……やば、カッコよすぎるだろ) だけど、何もない。
 触れられることも、 抱き寄せられることもなく、
 ただ「のぼせるなよ」なんて笑うだけ。 その優しい声も、
子供の頃と変わらない笑顔も、
 ふとした瞬間に見せる大人の顔も ──
全部、俺の心をぐるぐるかき乱す。 大きな手に触れられると、
胸の奥がじわっと熱くなる。 (……ああ、もう認めるしかない)

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