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第10話

ただ隣に座っているだけなのに、
胸の奥がざわざわして落ち着かない。 お湯のせいだけじゃない熱を、
ずっと誤魔化せなくなっていた。 帰りの車の中。
 外はすっかり夕暮れで、フロントガラス越しの景色がオレンジ色に染まってる。 タカヤは運転席で片手をハンドル、 もう片方の手はギアの横に置いて、
 ときどき俺の方をちらっと見る。 
そのたび、心臓がドクンと跳ねる。 「眠くない?」
 低い声が車内に落ちてくる。
 温泉で温まった体が、急に熱を取り戻したみたいにじわっと火照る。 「……だ、大丈夫」 声が少し上ずったのが自分でもわかった。 タカヤは前を向いたまま、小さく笑う。
 「そっか」 なんてことないやりとりのはずなのに、
 この密室感と、二人きりの距離が妙に意識させてくる。 ハンドルを切るたびに、
 タカヤの大きな手が視界の端をかすめる。
 さっきまで同じ湯に浸かっていた体──
 濡れた髪から滴る水、肌の熱、全部を思い出してしまう。 (やばい……顔、見られたくない) 窓の外に視線を逃がしても、
 カヤの横顔がどうしても気になる。
 笑ったときの目元、 真剣な運転中の横顔、
 そして ──時折のぞく、大人の男の色気。 そう気づいた瞬間、
鼓動がさらに早まった。

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