10 / 28
第10話
ただ隣に座っているだけなのに、
胸の奥がざわざわして落ち着かない。
お湯のせいだけじゃない熱を、
ずっと誤魔化せなくなっていた。
帰りの車の中。
外はすっかり夕暮れで、フロントガラス越しの景色がオレンジ色に染まってる。
タカヤは運転席で片手をハンドル、
もう片方の手はギアの横に置いて、
ときどき俺の方をちらっと見る。
そのたび、心臓がドクンと跳ねる。
「眠くない?」
低い声が車内に落ちてくる。
温泉で温まった体が、急に熱を取り戻したみたいにじわっと火照る。
「……だ、大丈夫」
声が少し上ずったのが自分でもわかった。
タカヤは前を向いたまま、小さく笑う。
「そっか」
なんてことないやりとりのはずなのに、
この密室感と、二人きりの距離が妙に意識させてくる。
ハンドルを切るたびに、
タカヤの大きな手が視界の端をかすめる。
さっきまで同じ湯に浸かっていた体──
濡れた髪から滴る水、肌の熱、全部を思い出してしまう。
(やばい……顔、見られたくない)
窓の外に視線を逃がしても、
カヤの横顔がどうしても気になる。
笑ったときの目元、
真剣な運転中の横顔、
そして
──時折のぞく、大人の男の色気。
そう気づいた瞬間、
鼓動がさらに早まった。
ともだちにシェアしよう!

