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第11話

タカヤの車が、俺のアパートの前で静かに止まった。 「今日は楽しかったな」
 そう言って、タカヤは助手席の俺に笑いかける。
 夜風に少し乱れた髪、湯上がりの余韻が残る頬。
 (……やばい、近い) 「……うん、俺も」
 精一杯、平常心を装った。 ドアを開けながら、
 (もしかしたら……このまま一緒に上がってくるかも) なんて淡い期待をしてしまう。 けど──
 「じゃあ、また」
 あっさりハンドルを握り直し、車を発進させるタカヤ。 ──え、何もないの!? 置き去りにされたみたいに玄関前に立ち尽くし、
 胸の中だけがまだ温泉の湯みたいに熱い。 (……俺、何期待してんだ) 
苦笑しつつ、部屋に入る。 ベッドに転がって、今日の温泉を何度も思い返す。
 「笑った顔、あんなに近くで見れるなんて…」 
思い出すたびに胸が熱くなって、気づけば枕に顔を押しつけてはニヤニヤ。
 「もっとタカヤと一緒にいたいな」
 一人の夜が、もう物足りなくなってる。 頭の中ではどうしてもさっきのタカヤが離れない。
 浴衣越しに見えた胸板、 露天風呂で肩越しに見た真剣な横顔、
 そして車内でふと落ちる低い声。 (好き……なんだ、俺)
 認めた瞬間、体の奥がじわっと疼く。 我慢なんてできるわけがない。
 ベッドに倒れ込み、ジッパーを下ろす。
 頭の中で何度もタカヤの姿を再生しながら、
 熱い手で自分を握る。 湯上がりのあの肌に触れたい。
 俺だけのものにしたい。
 そんな願望と興奮が絡み合って── 「あ……っ、タカヤ……っ」 声が漏れた瞬間、 
身体が小さく跳ね、 背筋がぞくりと震える。
 そのまま、余韻に沈んでしばらく動けなかった。

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