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第14話
(美咲と)
仕事終わり、スマホが震えた。
画面には「美咲」の名前。
「愁、仕事が終わったらウチに来て。外じゃ話せない大事な話があるの」
えっ……大事な話?
(ま、まさかこれって……告白!?)
心臓がどくん、と跳ねる。
慌てて美咲の家に向かうと、リビングに通される。
テーブルの上には、買ってきたばかりの牛丼の袋。
「はい、夕飯。食べながらでいいでしょ」
……牛丼!?
(いや、牛丼テイクアウトで告白……!?)
内心ツッコミつつ、正座して待つ。
美咲は牛丼を広げながら、じろっと俺を見てきた。
「で? アンタ、タカヤといい感じなんでしょ?」
「っ!? な、なな……!」
箸が落ちた。心臓も落ちそうだった。
「誤魔化しても無駄。私の弟だもん、知ってるって」
美咲の目が本気モードになる。
「いい? アンタ、男同士って準備ちゃんとしないと大変なんだから!」
「な、なにを言って……!」
牛丼の匂いと一緒に、わけのわからない言葉が押し寄せてくる。
美咲は真顔で言った。
「ローションは必須。あとコンドームはサイズ気をつけなさい。どこにでも売ってるけど、ネットなら翌日届くから」
「は、はやっ!?」
「で、次。エネマも必要。事前にきれいにしとかないと事故るからね」
「じ、事故って……!?」
牛丼の紅しょうがを箸でつまみながら聞く内容じゃない。
「あとプラグ。普段から慣らしといた方が絶対いい。いきなりなんて無理だから
小さいのから徐々に慣らして」
「ぷ、プラ……!?」
耳まで真っ赤になる俺。
「慣れてないと怪我するんだよ。アンタは初心者でしょ? タカヤはそこそこ大きいタイプだし」
「な、なんでわかるんだよ……!」
「だって弟だもん」
美咲はケロッとしている。
さらにスマホを取り出して、ネットショップを開いた。
「ほら、この初心者用セット。レビューも高評価、それとエネマ、プラグはこのサイズと、このサイズもいるかな。これでどう??」
「み、見せんなって!」
思わずスマホを押し返す俺。
「あとね、エネマグラ」
「……え?」
初めて聞く単語に固まる俺。
「……で、これがオススメのモデル」
美咲がスクロールして見せてくるスマホ画面。
そこには怪しげな形のシルエット。
レビューには
「最初は怖かったけど…」
「世界が変わった」
なんて怪しい言葉が並んでいる。
「コレでね、いいところを見つけるのが大事なの。最初から人任せにしないで、自分で探して慣れておいた方がいい」
「い、いいところ……?」
「そう。自分で快感のスイッチ見つけておけば、相手に触られたときも拾いやすいの。ぜんぜん違うよ」
「な、なに……!」
耳まで熱い。
「勉強だよ、勉強。ほら、ピアノだっていきなり両手じゃ弾けないでしょ。基礎練習は大事」
「ピアノと一緒にすんなぁ……!」
言葉の意味はわかるのに、想像が追いつかない。
「ほら、今セール中だし。迷う理由ある?」
にやにや顔の美咲。
指先が俺のスマホを勝手にタップする。
「あっ……!」
カートに入る → 購入確定。
支払い完了の画面に俺の顔は茹でダコ。
「明日には届くね。ほんと便利な時代だわ」
牛丼の玉ねぎが霞んで見えた。
そして最後に、にやりと俺を見て言った。
「あんたまさか、私に告白されると思った? 牛丼片手に? ないない〜w」
「……っ!」
顔から火が出そうだった。
「ははは! 顔真っ赤じゃんw」
美咲は楽しそうに笑って牛丼を頬張る。
「……っ!」
視界がぐるぐるする。
玄関を出る頃には、袋に残った牛丼の匂いより、頭に残った言葉の方が強烈だった。
(プラグ……エネマ……エネマグラ………ローション……)
夜風が火照った頬に当たっても、まだドキドキは止まらない。
(なんなんだ今日……でも、準備は……ちゃんとしなきゃ……だよな)
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