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ビュッフェスタイルの立食式パーティは、開始直後から怒涛の勢いで女性陣が一二三に群がって来た。
「西園寺さん!誕生日おめでとうございます。これ、プレゼントです」
「60点」
「お目にかかれて光栄です。私ずっと今日と言う日を楽しみにしていたんです」
「45点」
「……おい。風見……」
眼をハートにしながら群がって来る女性陣を、自分の背後にいる風見が勝手に点数を付けているのを耳にして、思わず睨みつけた。
「さっきから何を勝手にジャッジしてるんだ。 と、言うか聞こえたらどうする」
「安心してください。貴方様にしか聞こえないよう音量は調節しておりますので」
いや、問題の本質はそこじゃない。
「一二三様にふさわしい80点越えの女性は中々現れませんねぇ。データーだけでは不十分だったので、実物を見て判断しようと思ったんですが」
「……お前、いつか女性に刺されるぞ?」
30半ばのインテリ眼鏡にジャッジされる女性陣が不憫でならない。
「心配には及びません。一二三様の為なら喜んで刺されましょう」
「いや、それもどうかと……」
大真面目にそう返されて脱力するしかない。この男、馬鹿ではない筈だが目に余るほどの一二三への盲目っぷりがたまに傷だ。
もういい年齢なのだから、嫁探しなら自分ではなく風見がした方がよいのでは? と、思うのだが。
「なにか?」
「……いや、何でもない」
馬鹿正直にそんな事を言えば、絶対に風見の事だ。『私は一二三様にしか興味が無いので、嫁探しなどめっそうもない』とか言い出しかねない。
これ以上面倒な事になるのは御免被りたいので、一二三は風見を無視する事に決めた。
そんなやり取りをしつつ、次から次へとアピールしてくる令嬢たちに少々うんざりしていると、突然背後から男の声で呼び止められた。
振り向くとそこには、びしっとした黒いスーツに身を包み、焦げ茶色の髪をオールバックにしたガタイのいい長身の男がにこやかな笑みを浮かべながら、立っていた。
「一二三君。今日誕生日なんだって? おめでとう!」
年の頃は30過ぎ。一二三よりも5歳ほど年上だろうか? いかにも遊んでいますと言うオーラが満載の男が、馴れ馴れしく声を掛けて来る。
「お知り合いですか?」
突然現れた男に風見の警戒レベルが上がり、眼鏡を押し上げながら声のトーンを下げそっと一二三に耳打ちして来る。
「あぁ、少し。現警察庁長官の甥っ子で名前は確か――」
「やだなぁ、忘れたなんて寂しい事言わないで下さいよ。小さい頃はよく一緒に遊んだ仲じゃないですか」
そうだっただろうか? 父が懇意にしている古くからの友人の一人が現在の警察庁長官である間宮正信だ。自分と歳が近いからと言う理由で時々一緒に連れて来ていた記憶はあるが、そこまで仲が良かったわけでは無かったはずだ。
「初めまして。間宮大吾です」
チャラい見た目とは対照的に名刺代わりに警察手帳を風見に見せて挨拶するあたり、悪い人間ではないのだろう。
「ありがとうございます。私は一二三様の秘書をしております風見です。間宮様は警察官なんですね? 警察庁長官殿の甥っ子さんと言う事はキャリア組ですか?」
「ちょっ、風見。お前流石に失礼だろうがっ」
初対面の相手になんてことを言うんだ!と、内心焦って咎める意味を込めて肘で突く。
人の事を階級や収入で判断するような考え方は自分は好きではない。
「まぁ、キャリア組と称されることもありますけど……。地道に地位を気付いてる所っす。 叔父さんが長官だからとか関係ない。親の七光りなんて言われたくないし、昔からなりたかったから、警察官になっただけなんで!」
「なるほど。素晴らしい志ですね」
風見の無礼な物言いにも、大吾は全く気にする様子も無く淡々とした様子でそう答えた。どうやら見た目ほどチャラい人間では無いらしい。
「今回は叔父さんの付き添いで同行しただけだけど、一二三君に何かあれば助けるように言われてるから。何かあったら何時でも相談してくれ。それじゃ、また」
警察官らしくビシッと敬礼して、間宮は叔父さんである長官に呼ばれ走っていてしまった。
「それは心強いですね」
「こんな船の中で何か、なんてあるわけ無いじゃないか」
「それはどうでしょう? 船旅は長いですから」
間宮大吾の暑苦しいまでに爽やかな笑顔を脳裏に思い浮かべながら、一二三は小さく溜息を吐きつつ首を横に振った。
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