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なにが誕生日だ。競い合うように豪華な品物を送り合う女性たちの贈り物合戦。 金に物を言わせて、高価な物で自分を飾り立て、自分の価値を高めようとする浅ましさ。 「反吐が出る……」 真っ暗な海を覗き込んでいると、バシャバシャと白波を立てて船が走行しているのがわかる。 いっその事、このままこの船から海に飛び込んでしまおうか? そうすれば自分はもうあのくだらない世界とは無縁でいられる。 そんな馬鹿気た考えが頭を擡げ、一二三は自嘲的な笑みを浮かべた。 「何を馬鹿な事を……」 そんな事出来るわけがない。だが、自分を本当の意味で理解してくれる人間が居ない世界なんて、生きていてもこの先ずっと虚しいだけなのではないだろうか? 何をやっても親の七光りだと言われ、好きでもない女にモテても嬉しくないし、それなのに男からは疎まれ嫉妬の目を向けられる。  『親の七光りとか関係ない。昔からなりたかったから警察官になったんで!』 そう豪語した大吾の言葉をふと、思い出した。 自分がやりたい事、自分の思うがままに生きて行くことがどれだけ難しいか。 「もう……疲れたな……」 このまま消えてしまいたい。そんな考えが頭を過り海を覗き込もうとしたタイミングで、胸ポケットに仕舞っていたスマホが震えた。 恐らく、会場内に自分が居なくなったと気付いた風見だろう。  さっさと電源を切ってしまえばよかった。位置情報を割り出されたくなくて、スマホの電源を切り胸ポケットに再び仕舞おうとした瞬間、波で小さく船が揺れ自分の手元からスマホがポロリと落ちた。 「あ、」と、思った時にはもう遅く、それは海の中に吸い込まれるように落ちていった。 慌ててデッキから身を乗り出そうとしたその瞬間――。 「おいッ、何やってるっ!」 「!?」 突然大きな声が響いたと思ったら、物凄い力で欄干から引き離された。 もしかして、父親がこっそり付けさせたSP!? 自分を強制的に連れて行こうとしているのだろうか? そんなのは嫌だ! 「は、離して下さいっ!」 「離すわけ無いだろ!!」 ぐらりと船が波で大きく傾いたタイミングで、甲板へと引き摺り上げられ、大きな声で怒鳴られた。 「何考えてんだ! 冬の海でこんな事をするなんて、自殺行為だぞ!」 そんな事、わかっている。だが何故、見ず知らずの男に頭ごなしに怒鳴られなければいけないのか。 「……っ、ほっといてください!」 「そう言うわけにもいかないんだ。俺の仕事場で死者を出すわけにはいかないんでね」 「仕事……場?」 よく見れば、真っ白な制服にきっちりとした蝶ネクタイ。見るからに体格のいい男だがSPでは無さそうだった。 「……たく、なんでこんな大物がこんな所に……。もしかして迷ったんですか? 何ならレストランまでお送りしま「ッ、それは……止めてくれないか」」 「は?」 若干食い気味に訴えると男は訝しげな顔をして眉を寄せた。 折角逃げ出して来たのにあの会場に逆戻りなんて絶対に嫌だ。 「……一人になりたいんだ。戻りたいときには戻るからそっとしておいてくれないか?」 「いや、自殺しようとしてた奴をこんな所に一人で置いて行けるわけ無いでしょ」 「自殺? キミは何を言っているんだ? 僕はただ、スマホが海に落ちてしまったから……」 一体何を勘違いしているのだろうか? 眉を顰めて見上げると男は妙に納得したようにポンと手を打った。 「あー、なるほど。だからいきなり身を乗り出したのか。つか、此処。一般人立ち入り禁止なんです。危ないから一人になりたいって言うならもっと安全な場所にお連れしますよ。西園寺さん」 「え……」 それは知らなかった。と言うか、何故この男は自分の名前を知っているんだ?  もしかして風見か父の手下だろうか? 一気に警戒レベルが跳ね上がり、一二三は男から距離を取る。 「なんでわかったんだ? って顔してますね。 わかりますって。ついさっき貴方が載ってた雑誌見たばっかだし」 本当にそうだろうか? 確かに、数週間前週刊誌の依頼に応じて話をした事は間違いないが……。 いや、そ知らぬふりをして警戒心を緩め、自分をまたあの地獄へと連れて行く算段かもしれない。 「……キミは一体……」 何者かと問いかけようとしたその時、一二三の視界に見知った男のシルエットが映りこんだ。

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