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act3 総一郎SIDE
いったい何故こんな事になったのか。
金持ち同士のトラブルなんて関わるつもりは一切なかった。
それなのに……。件の御曹司、西園寺一二三が今、自分の目の前に居る。
「へぇ、キミたちの部屋はこんな風になっているのか……。随分とシンプルなんだな」
「部屋に窓が無いなんて! 息が詰まらないのか?」
余程物珍しいのか、一二三は自分たちの部屋に興味深々の様子で、興味深そうに部屋の中を見渡している。
まぁ、彼が利用しているスイートルームに比べたら天と地ほどの差があるし、当然の反応と言えばそうなのだが、毛嫌いしている人種が自分の部屋に居ると言うのが何とも落ち着かない。
「あの……西園寺さん? あまり動き回らないで貰えますか?」
「あ、あぁすまない」
軽く注意すると思いの外素直に言うことを聞き、一二三は総一郎が使っているベッドへと腰を下ろした。
「君たちは毎日此処で寝泊まりしているんだな」
「そうですね、基本スタッフのプライベートルームは皆同じような作りになってます」
「不便じゃ無いのか?」
「まぁ、仕事ですから。もう慣れましたし……。どうせ、寝る時と休憩する時くらいしか戻ってこないのでこの位の狭さで充分なんですよ」
「ふぅん? そう言うもんなんだな」
一二三は納得したように頷き、そして再び部屋の中をぐるりと見回した。
まるで物珍しいものを見る子供のようなその仕草に、思わず総一郎は苦笑する。
この御曹司様にとっては衝撃的な狭さなのかもしれない。
金持ちなんてみんな同じ。自分より格下の人間を見下し、蔑み笑う。
目の前の男だってきっと同じだ。言葉や態度に表さないだけで、心の中では馬鹿にして笑っているに違いない。
そう思えば思うほど総一郎の心がささくれ立って行くのを感じる。
だが、一二三はただ純粋に興味深そうに部屋の中を物色しているだけで、馬鹿にしている様子は一切見られ無い。
寧ろ好奇心旺盛な小さな子供を見ているような気分だ。
総一郎がそんな事を考えつつ一二三の様子を見ていると、彼は何かを見つけたらしく、小さく「あっ」と声を洩らした。
「どうかしたんですか?」
「ふぁ!?」
一体なんなんだ? 不審に思い覗き込もうとした瞬間、一二三は大袈裟なほど飛び上がり、側にあった枕で慌てて何かを覆い隠した。
「な、なんでもない!」
「なんでもないって……。つーか、枕で隠すような物置いてたかな?」
彼が座っているのは確かに自分が使っているベッドだが、隠さなければいけないようなものを置いた心当たりはない。
「べ、べべ別に、男なんだから、こう言うものを持っているのは当然だろうし、それをどうこう言うつもりは無い! す、少し驚いただけで……っ」
「え?」
白い肌が茹でたタコみたいに真っ赤になって行く一二三を見て、総一郎はなんとなく察した。
彼が枕で隠したものの正体を。
そう言えば、昨日同室の佐伯が自分のおススメだからと、強引に押し付けて来たのをそのままに置いていたような気もする。
もしかして、西園寺グループの御曹司ともなると、そう言う低俗なものは徹底的に排除されているのだろうか?
この男が幾つか知らないが、ソレ専属の世話係がいたりとか? って、流石にそんなわけ無いか。
それにしても初々しい反応だ。 金持ちのトップなんて傲慢で、陰険で、下々の事なんて虫けら程度にしか思っていない。
金が有る者こそ偉いのだと、自分は選ばれた特別な存在なのだと信じて疑わない人種だと思っていたのに。
「へぇ、意外だなぁ。西園寺さん……って、そういうのに免疫ないんですね」
思わず、からかい半分でそう言ってやると一二三は真っ赤になっていた顔をさらに赤くして総一郎を睨み付けた。
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