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「いや、いい。助けてもらった礼もまだだからね。直接お礼が言いたいんだ。だから僕が持っていく」 「ですが……」 「いいんだ。僕が借りたものなんだから」 「しかし……」 「何度も言わせないでくれ」 「……かしこまりました」 少し強く言い切ると、風見は渋々と言った様子で引き下がった。まさか断られると思っていなかったのだろう。その様子からは明らかな動揺が見て取れる。 「大丈夫だよ風見。彼は全然悪い人なんかじゃない。だから、そんなに心配しないでくれ」 出会ったばかりだが、彼からは打算や下心と言うものは一切感じられなかった。どちらかと言えばむしろ、面倒くささや嫌悪感と言った負の感情の方が強く滲み出ていたような気がする。 「はぁ。仕方ないですね。また、逃げ出されたら堪りませんし、そのジャケットについてはお任せします。ですが! この旅の目的が貴方様の嫁探しを兼ねていると言う事を忘れないで下さい」 「う……っ、わかってるって」 ちゃっかりと釘を刺されて、一二三はヒクリと頰を引き攣らせた。 自分だって馬鹿じゃないんだから、その位はわかっている。せっかく忘れようとしていたのに蒸し返されて辟易してしまう。 「わかってません! いいですか? 貴方様はコレから西園寺家を背負っていくお方なのです。それなのに――」 あぁ、始まってしまった。風見の小言は長い。一二三はうんざりした様子で小さく溜息を吐き出すと、この長い小言が早く終わる事を切に願った。

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