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act5 総一郎SIDE
「で? なんっで貴方がまたここにいるんです?」
ちょっと変わった御曹司様と出会った翌日。仕事が終わり部屋へと戻って来たら、何故か自分のベッドに彼がちょこんと行儀よく膝を揃えて座っていた。
「やぁ。昨日は世話になったね。僕はコレを返しに来たんだけだけど、事情を話したら君の友人がもうすぐ帰って来ると思うから部屋で待っているといいよと言って入れてくれたんだ。だから、お邪魔させて貰っている」
「……あの野郎」
絶対わざとだろう。同室者である佐伯がニヤニヤと笑っている顔が浮かんでくる。当の本人は今夜は夜回り担当だから、部屋には戻ってこない。
ジャケットを返しに来ただけなのだから、佐伯が受け取っておいてくれればよかっただけなのに、わざわざ部屋に上げるなんて! 一体なにを考えているんだと、この場にいない佐伯に対して苛立ちが込み上げてくる。
それにしても、御曹司自ら返しに来るなんて……。
自分の知っている成金たちは、ジャイアニズムを存分に発揮して、人から奪いはするものの返しに来るような輩は一人もいなかった。一般人は大人しく従っていればいいんだと威張り散らすような奴らばかり見て来たから、まさか直接本人が返しに来るなんて思いもしなかったのだ。
差し出されたジャケットを確認し、仕方なく受け取ると、一二三は少しだけホッとしたように肩の力を抜いた。
「別に予備もあるから、急いで返さなくてもよかったのに」
「そう言うわけにはいかない。キミの大切な商売道具じゃないか。それに、いつまでも部屋に置いていると風見が五月蠅いから……」
「風見?」
「僕の専属秘書だ。ちょっと……いや、大分面倒な奴でね。僕の事となると、すぐ小姑みたいに口出しして来るんだ」
一二三はうんざりしたようにそう言って溜息を吐き出す。
「あぁ、あのいかにも陰険そうな眼鏡か」
「ふっ、……陰険、眼鏡……っ」
思わず口をついて出た言葉だったが、一二三の口元が歪にゆがんだ。
笑いそうになるのを必死に堪えているのか、小さく肩が震えている。
「な、なんだよ」
「いや、すまない。ちょっとツボに……ふふっ」
何がツボだったのかよくわからないが、柔らかな表情は実年齢より随分と幼く見える。
やはり彼は少し変わっている。自分の今まで見て来た金持ちたちとは全然違い過ぎて、どう接して良いのかわからない。
彼が居るせいか、自分の部屋なのに妙に落ち着かない。
用件が済んだらさっさと戻ればいいのに。よほど暇を持て余しているのだろうか?
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