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「っ、アンタ……それワザとか? 」 「ん?」 苦笑気味の呟きが聞こえて来たかと思うと、ひやりとした感触が唇に触れた。そのまま形を確かめるように指でそっとなぞられ、一二三は身体を震わせる。 「ん、ん……っ?」 擽ったくて身を引こうとすると、逃さないとでも言うかのように腕を掴まれ、そのままベッドへと縫い付けられる。 顔と顔が接近し、目が合って、改めて彼の顔が男らしい精悍な顔立ちである事を認識する。 「ほら、口開けて?」 「へ……? ん、ぁ……」 薄く開いた唇に指とは違う柔らかい感触がして、ぬるりとしたものが口腔内に侵入した。それが総一郎の舌だと気付くのにそう時間は掛らなかった。 歯列をなぞり、上顎を擽られ、舌を絡め取られ、吸い上げられる。 「ん、ふ……んん……」 自分は今、キスされているんだと、上手く回らない頭でぼんやりと思った。 しっとりと唇を吸われ、首の後ろがざわっと粟立つ。 「は……ん」 角度を変えて何度も重なる唇がやけに熱く感じられて、溜息のような吐息が洩 れた。 遊ぶように口内を探る舌に、どう反応したらいいのかわからない。逃げるように巻いた舌を絡め取られ、じわっとしみるような感覚と、ピリッと痺れる感じが同時に襲って来て、腰のあたりにむず痒い何かを感じ始めた。 どうしよう、なにか変だ……。 「ふ、ぁ……」 アルコールで鈍った頭でも、さすがにこれはおかしいと警鐘が鳴り響く。  音を立ててゆっくりと離れた唇が、もう一度重なった。チュッと啄んで離れて、また重なる。 何度もそれを繰り返されて、頭が次第にぼやけていく。ふわふわして、何も考えられない。 「ん……ふ、ぅん……」 キスの合間に漏れる自分の声が妙に甘く聞こえて、一二三は羞恥に頬を染める。 「……やべ、止まんね……」 総一郎は熱の籠った声でそう囁くと、また唇を塞いで来た。今度は最初から深い口付けで、舌を吸われ、口腔内をくまなく舐めまわされる。 「西園寺さん、腕こっちに回して」 「ん…は……っ」 促されるまま、総一郎の背に腕を回してしがみ付く。 さらに二人の距離が密着し、互いの体温が混ざり合う。 (熱い……) そう感じたのは、果たして熱のせいだけなのだろうか? 舌を吸われ、甘噛みされて、口腔内を余すところなく舐めまわされる。その行為がだんだんと気持ち良く思えて来て、もっとして欲しいような気さえしてくる。 だが、終わりは唐突にやって来た。 「っ、は……」 「流石に、これ以上は……」 名残惜しそうに唇が離れ、唾液が銀の糸のように伸びて、プツリと切れた。 はぁ、妙に艶のある息を吐き、髪を掻き上げる仕草にドキリとする。しっとりと濡れた唇をペろりと舐める仕草が妙に男らしくて、一二三はゴクリと喉を鳴らした。 「……ごめん。我慢出来なかった……。俺、戻りますね」 そっと目にうっすらかかりそうな前髪を掬い、額にキスが落とされる。 チュ、と音を立てて触れた唇の熱さに、身体が勝手に震えてしまう。そのまま総一郎はベッドから降りると、静かに部屋を出て行った。 「……なんか……凄かった……」 今しがたまで、触れ合っていた唇をそっと指で辿る。まだ彼の唇の感触が残っているような気がして、なんだかドキドキする。 でも……、とても気持ちが良かった。ふわふわして、頭が真っ白になって、身体が熱くなって……。 顔が熱くて、心臓もドキドキして……。おかしい。なんだろう? この感じは……。でも、困ったことに嫌では無かった。 むしろ…… 「また、したいな……」 そう呟いた自分の声に驚いて、一二三は慌てて口を押さえた。 「え……? 今、なんて……」 いやいや、何を馬鹿な事を。彼は男で、自分も男。キスなんて間違っている。 でも、もう一度……。 「いやいや、何考えてるんだ僕は」 一二三は自分に自分で突っ込んで、布団を頭から被った。 こんなに身体が熱いのは久しぶりに飲んだアルコールのせいだ。きっとそうだ、そうに違いない。まだ、耳の奥でドキドキしている気がする。 「寝よう……。もう、寝てしまおう」 一二三はそう呟いて、ギュッと目を閉じた。

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