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今回は使用されていない一般客層向けの部屋がある長い廊下を抜け、船首の方へ向かって歩いていくと、突き当りに扉が見えて来る。
操縦室の真上に位置するこの部屋は、室内展望室になっており、一面ガラス張りの大窓からは、大海原が見渡せるようになっていた。
最大で15人ほどは入れるスペースに固定されたベンチが数脚あり、その横手には小さなテーブルと2人掛けのソファが置いてある。
窓のない客室の人達にも室内からの景色を楽しんで貰えるようにと作られた展望室は、冷暖房が完備され、その絶景を楽しむことが出来るようになっている知る人ぞ知る穴場スポット。
だが、現在は夜間な事もあり、展望室の中は誰も居らず閑散としている。
総一郎は中に誰も居ないことを確認すると、一二三をソファへと座らせてから、部屋の端に設置してある自販機でコーヒーを二つ買い、一つを一二三に差し出して隣に腰掛けた。
「こんな場所があったなんて知らなかった」
「そりゃまぁ、エトワールはただでさえ広いですし……。こんな所に来なくても、景色を楽しみたいならデッキに出た方が早いですから。それに、案内図を隅々まで見る人ってあまり居ないでしょう? 俺は結構好きなんですけどね、此処」
コーヒーに口を付けながら窓の外を見つめる。昼間は行き交う船や遠くに見える島々が見えた景色も、今は暗闇に沈むだけで何も見えない。
「そう、か……。言われてみれば確かに。ジムやプール、シアタールームは目に付いたが、此処は盲点だった」
「でしょう?」
「あぁ。此処は静かだし、ゆったりとした気分で景色が楽しめて良いな」
コーヒーを一口飲んで、ホッと息を吐く一二三。少しだけ表情が和らいだのを見て、総一郎はホッと胸を撫でおろした。
「ところで西園寺さん。俺に何か話したいことがあったんじゃないんですか?」
初めは昨日の事について責められるのかと思っていた。だが、どうやらそうではないらしい。
聞かずに済むならそれでもいい。だが、人気のない所をわざわざ指定してくるくらいだ。よほど誰にも聞かれたくない話があるのだろう。
それが一体何なのかと身構えていた総一郎だったが、一二三は言いにくそうに、あー、とかうー、とか言いながら視線を彷徨わせている。
その態度に苛々させられたが、総一郎グッと堪えて一二三からの次の言葉を待った。
「その、僕と……付き合ってくれないか」
「はい……?」
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