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「キミが言ったんだろ」
「いや、確かにそうですけど……」
今更冗談だったとは言えず、バツが悪そうに視線を彷徨わせていると、一二三はゴホンと咳払いを一つ零した。そしておもむろに総一郎の胸倉を掴んで引き寄せると、勢いに任せて唇を重ねてくる。
触れるだけの、可愛らしいキス。総一郎が目を閉じる事も忘れて唖然としていると、一二三が勢いよく身体を引き離した。
「こ、これでいいのだろう?」
その顔は、首筋まで真っ赤に染まっている。
自分からしておいてその反応は如何なものだろう。総一郎は込み上げてくる笑いを堪えるのに必死になる。
「ぷぷっ、ふふ……あははは。西園寺さん、顔真っ赤」
「き、君がしろと言うからしたんじゃないか! 」
「い、いや。すみません。まさか本当にしてくるとは思わなかったので……。あははは」
「……まさか揶揄ったのか!?」
恥ずかしさの余りに睨みつけながら涙目になった一二三が、総一郎の肩をドンと押して距離を取る。その反動でソファがギシリと鈍い音を立てた。
「やっべ、ツボった……っ。あんた、やっぱおもしれ―」
「な……っ!」
「いいですよ。俺で良ければ幻の恋人やってあげます」
ひとしきり笑った後、目尻に浮かんだ涙を拭いながら、居た堪れなくて帰ろうとする一二三の腕を掴んで引き寄せた。
「西園寺さんは初心すぎるから、もう少し耐性を付けないと。本当に好きな人が出来た時に困るでしょうし、ね? 俺がアンタを男にしてやりますよ」
耳元に顔を寄せて吐息混じりに囁けば、一二三が耳まで赤く染めて身体を硬直させる。
その反応が可笑しくて、笑い出しそうになるのを総一郎は必死で堪えた。
「なっ!? 何を言って……」
「初心なアンタには俺が手取り足取り教えてあげますよ、コイビトのイロハって奴を」
意地悪く微笑むと、一二三は唇を強く噛み締めて無言で睨みつけて来たが、もう何も言わなかった。
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