42 / 48

9-5

「……子供扱いしないでくれ」 乱れた髪を軽く整えてやり、宥めるように頬と鼻先にキスをする。少し不満そうではあるが大人しく待っているよう言い聞かせると、一二三は拗ねたように唇を尖らせて布団を頭まですっぽりと被り丸くなってしまった。 その姿に威厳を求めろと言う方が無理があるだろ。なんて苦笑しつつ我儘なお姫様の為にベッドを降りて水を取りに行く。だが、今日に限って簡易冷蔵庫の中の水を切らしており、仕方なく部屋の外にある自販機へと足を運んだ。 「あー……やっべ、マジ……。こんなんであと一週間持つのか俺……。あんなの、反則だろ」 自販機の前で深く溜め息を吐き、項垂れる。まさか自分が男に欲情してしまう日が来るなんて考えもしなかったし、考えたくもなかった。 あんな顔を見せられて、誘われて、意識するなと言う方が無理な話だ。 一二三の前ではポーカーフェイスを貫いているが、正直今にもはち切れそうなくらい、下半身が疼いている。 頭ではダメだとわかっているのに、あんな可愛らしい姿を見せられたら、我慢なんて出来なくなってしまう。 影武者の恋人役を演じろだなんて言う無茶ぶりに対する、ほんの少しの仕返しのつもりだった。それなのに、あの初心な反応を見せられては、もっと色んな事をしたくなる。 あの中性的な美貌は傍から見る分には飽きる事はないし、男にしては華奢で小柄な身体も抱き心地は良さそうだ。 それに、あの初心な反応は正直、かなりそそられる。 「はぁ……。俺ってこんな趣味だったのか……」 いや、違う。一二三だからだ。他の男だったらこうはならない。 「……っとに、なんであんなに可愛いんだよ」 頭をガシガシと乱暴に掻き乱して、誰に言うでもなく小さく叫んだ。これ以上深入りすると自分が戻れなくなりそうで少し怖い。 だが、この仕事を引き受けた以上、途中で放り出すわけにもいかない。一二三がもういいと言うまではこの茶番を続けて行かなければならないのだ。 「その前に俺が欲求不満になりそ」 自分の額に手を当てて、ハァー……と重い息を吐き出す。とりあえず今は、この身体の疼きをなんとかしなければ。総一郎は自販機で買ったミネラルウォーターを一気に飲み干し、もう一本をポケットに突っ込んで気を静めてから部屋に戻った。

ともだちにシェアしよう!