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ACT.10 一二三side

「総一郎、朝だぞー」 耳に馴染みのない、呑気な声が聞こえた。 一二三の意識がゆっくりと戻って来る。 「おい、起きろってば」 夢現に聞いていた一二三は、一気に目が覚めた。瞼を開くと、視界いっぱいに男の顔がある。、一瞬誰だかわからずにぎょっとして、僅かに身を引いた。 直ぐに、昨晩の事を思い出した。此処は確か総一郎の部屋で、起こしに来たのは恐らく同室者の佐伯だろう。 一二三は上掛けの中で息を顰めた。顔の半分以上は上掛けの中に入っているし、総一郎に抱きかかえられるようにして隠れているので恐らく佐伯の角度からは、見えていないのだろう。 「……まだ、もうちょっと……」 「たく、俺は先に出るけど、遅刻だけはすんなよ」 「ん……りょーかい」 まだ寝ぼけているのだろうか、総一郎が気怠そうに生返事をする。 佐伯は一二三を一瞥する事もなく、身支度を整えると早々に部屋から出て行ってしまった。バタン、とドアが閉まる音を聞き届けてから一二三はそろりと上掛けから顔を半分だけ覗かせた。 佐伯が戻ってくる気配が無い事を確認すると、一二三はそろりと息を吐く。 「あー、すげいい匂い」 「!」 抱き締めながらスンスンと鼻を鳴らせる総一郎に、一二三は顔を赤くし、硬直する。 昨夜は、気怠さが過ぎてうっかり眠ってしまったが、今はドキドキして瞬きも出来ない。そっと背中を撫でる大きな手や抱きしめられた腕の感触。 思い出してしまったら、もうダメだった。 心臓の音がうるさいくらいに耳元で鳴り響き、彼の吐息や体温の熱さを身体が覚えていて、勝手に熱を帯びて行く。 もしかして、また? いや、でも! まだ朝だし……っ。 密着した身体が熱い。心なしか、彼のそれが熱を持っているような気さえする。 寝ぼけた総一郎に先を求められたらどうしよう……。あの先って一体なにをするのだろう……? でも、想像力の限界に挑んで疲れ果て、ふと見ると、総一郎は心地よさそうに寝息を立てて眠っていた。 「なんだ……。寝ちゃったのか……」 はぁ、とガチガチに緊張させていた体から力を抜いた。 「ホッとしたというか……ガッカリしたっていうか……」 つい勝手にポロリと口をついて出た言葉に驚く。 (が、ガッカリってなんだ。全然! 期待していたわけじゃないっ! そんなわけ無いっ) 心の中で一人ツッコミを入れながら、改めて総一郎の寝顔を覗き込む。 やっぱり、自分にはない男らしい顔立ちをしている。筋肉の付きにくい貧相な自分とは正反対の逞しい身体付き。それに、なんだか……さっきから腰のあたりに当たっているソレが……。 一二三は無意識に、ごくりと喉を鳴らしていた。 (僕のより随分……いや、かなり、大きくないか?) 自分のものと比べて、長さも太さも一回り以上大きいような気がする。思わず、そっと手を伸ばしそうになり一旦は引っ込めたものの、やはりどうしても気になって、恐る恐る下着越しに幹の部分をに触れてみた。やはり随分と巨大な気がする。掌に収まらないその質量と熱さに鼓動が早まる。 「……す、すごい……」 掌で優しく撫でると、総一郎が一瞬眉を顰め、一二三の背中に回した腕にぎゅ、っと力を入れた。そのせいで互いの身体がより一層密着する形になり、慌てて身を引こうとするが、眠っているのに彼の腕の力は強く、離れる事が出来なかった。 いけない事をしているという背徳感が興奮に変わっていくようで、なんだか頭がクラクラする。 「ん……っ」 総一郎の口から僅かに吐息が漏れて、一二三はハッと我に返る。 「ぼ、僕は何をしてるんだ……っ!」 慌てて手を離し、総一郎から距離を取ろうとした。だが、離れた瞬間、総一郎の腕に捉えられて引き戻されてしまう。 「わっ」 そのまま、再び腕の中に閉じ込められ、一二三は顔を真っ赤に染めた。寝ぼけているのだろうか? それとも? 「寝てる人のチンコ触るなんて、いやらしいなぁ……西園寺さんは」 「な、ち、ち、ちがっ……そう言うつもりじゃ……ッ」 「じゃあどういうつもりですか?」 不意に総一郎が含み笑いを浮かべながら一二三の耳元に顔を寄せた。寝起きで掠れ気味の低いその声が、耳元から直接流し込まれ、ゾクゾクとしたものが背筋を駆け上がる。

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