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その日の午後、部屋に籠って書類の整理をしていたら、珍しく総一郎の方からメッセージが入っていた。 内容はたわいもない事だったが、それでも何となく嬉しくて自然と頬が緩んでしまう。 いくつか短い単語のラリーを繰り返していると、突然【今夜、観劇でもしませんか?】と誘いが飛んできた。 これはもしや、デートの誘いでは無いのだろうか!? そう思ったら、急に心臓が早鐘を打ち出した。  この船上に劇場があることは知っていたし、毎日何かしらのショーがあっている事も理解していたが、今まで観た事が無かった。 船上で観劇デートだなんて、なんだか本物の恋人っぽい。どうしよう、なんだか凄くドキドキしてきた。 でも、男同士で観劇なんて変じゃないかな? いや、でも、総一郎が誘ってくれたんだし……。 勢い込んでOKの返事を出したものの、今度は向こうからの返信が無い。 あれ? もしかして、からかわれただけ? やっぱり僕とはデートなんて嫌だったのかな。 なんか、すごく一人で盛り上がってしまって恥ずかしい。 スマホと睨めっこしながら悶々としていると、【20時に劇場前で】とだけ返事が来た。 相手からやって来る一文、一文が嬉しくてついつい、何度もスマホの画面を見返してしまう。 今朝がたまで一緒に居たのに、電話して直接話がしたい。声が聴きたい、なんて言ったら、総一郎は困るだろうか? いや、やっぱり流石にソレは駄目だろう。きっと向こうだって仕事中の筈だ。 たったこれだけのやり取りなのに一喜一憂してしまうこの気持ちは何なのだろう。 また後で。と送られて来たスタンプが何故か愛しく思えて、画面の照明が一二三はずっとそれを眺めていた。

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