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「なんだよ、デートだったにしちゃ、浮かない顔してんなぁ」
部屋に戻るなり、自分の事を待っていたらしい佐伯がニヤニヤと笑いながら話しかけてくる。
余計なお世話だ、と思いつつも適当に相槌を打ちながらスーツのジャケットを脱ぎネクタイを外すと、どっと疲れを感じてそのままベッドに倒れ込んだ。
「オッサンみたいな格好してんなよー」
「うるさい……」
力なく応えると佐伯はプッと吹き出して、ベッドの端に腰を下ろした。
「ま、いいや。で? どうだったんだよ?」
「どうって……別に普通だよ」
「普通ねぇ……。その割には、なんかあったっぽい顔してるけど」
「……」
佐伯はニヤニヤと笑いながら、向かいにあるベッドに腰掛けたままの総一郎に視線を向けてくるからどうにも居心地が悪い。
どうせなら、先に寝ててくれたらよかったのに。なんてことを思いながら、総一郎は深い溜息を吐く。
別に佐伯に話すような事ではないし、そもそも自分の中でもまだ整理が付いていない。
「なんだよ、告白でもされちゃったか?」
「……は?」
不意にとんでもない事を言われ、総一郎はギョッとして佐伯を見た。当の彼は、からかうような笑みを浮かべていて、総一郎の反応を楽しげに観察している。
「そんなわけ、ないだろ! 馬鹿じゃないのか?」
一体何を根拠にそんな事を言っているのか理解ができないし、正直あんまり触れられたくない部分だったので、総一郎は盛大な溜息を吐いて佐伯に背を向け、枕に顔を埋める。
そう、あれは告白なんてものではない。 でも、それでも……あの眼差しは、総一郎に好意を寄せているようにしか思えなかった。
勘違いしてもいいのに、なんて。
あんな事、言うなんて反則だろう。あんなの、誰だって期待してしまう。
いや待て、期待ってなんだ。自分はゲイじゃない。断じて違う! でも、じゃあ、どうして……こんなに胸が高鳴っているのか。
ぐるぐると考えてみても答えなんて出る筈がない。
「なに気にしてんのかしらねぇけどさ、俺は二人ともお似合いだと思うけどな」
満更でもないんだろう? と、訊ねられ、総一郎は思わず枕から顔を上げた。
「そんなわけないだろ! 男同士だぞ?」
「別に今の時代関係なくね? 他人がとやかく言うことじゃないし、それに今はそういう人達もいるじゃん」
それは確かにそうだ。だがしかし、自分が当事者になるだなんて考えたこともなかった。
一二三は、確かに綺麗な男だとは思う。
だが、自分と同じ男だ。しかも、自分より6歳も年上で、名門と言われる家の跡取り息子で……。
「それにさ、一緒に居るのは苦痛じゃないんだろう? だったら、別にいいじゃん」
確かに佐伯の言う通りかもしれない。今まで誰かと一緒にいて、あんなに楽しいと思ったのは一二三が初めてだ。
彼の行動の一つ一つが可愛くて、可笑しくて。次はどんな反応をしてくれるんだろうか。どんな表情を見せてくれるのか、なんて考えだすと止まらないし、ワクワクする。
歴代の彼女たちとだってそんな風に感じた事は無かった。
だがしかし、だからといって彼が好きだとかそんなこと……そんな、こと……。
「金持ちが嫌いだって言うお前の気持ちもわかるけどさ、あの人全然そう言うタイプじゃないっしょ。ちょっとしか話したことない俺でもすげぇイイコだなって思えるし、全然擦れてないっていうか……。今時女にだってああいう純粋な子いねぇよ?」
「……」
確かに。一二三は擦れていない。
それは、一緒にいてすぐにわかったし、彼の言動の節々からそれが見てとれたから。
「さらに言わせて貰えば、お前が他人を気にしてデートに誘うなんて、今まで無かっただろ?」
「それは……あの人が部屋にこもりっきりで仕事ばかりしてるみたいだったから、少しは息抜きになるかもしれないと思っただけだ。他に意味なんて……」
「無いって? 本当に?」
「……っ」
佐伯に問われて、総一郎は言葉を詰まらせた。
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