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「何を気にしてんのか知らないけどさ、お似合いだと思うけどな俺は。だいたい、男に恋人役頼む時点で向こうがお前に気があんのはバレバレじゃん。んなの、小学生にだってわかると思うけど」
「そ、それは西園寺さんが女性が苦手だからだって説明しただろ」
「いくら苦手で切羽詰まってるからって、野郎にそんな事頼めるか? しかも、一回会うごとにキスするんだろ? お前の悪い冗談真に受けて、そこまでするもんかよ」
言われて、ぐっと押し黙る。確かに佐伯の言っている事は間違ってはいない。
だが、一二三が自分に気があるから、今回の件を頼んだのか? と言われたら恐らくはNOだ。
出会った時も切羽詰まったような悲壮感を漂わせていたし、周りに彼の味方など一人も居ないのも話を聞いていてわかった。
キスをOKしたのはきっと未知の経験に対する期待や憧れ、イケナイコトをしているという背徳感が、彼をそうさせたのだと総一郎は思っている。
話を聞く限りでは、持っている電子機器全てに強固なセキュリティが掛けられており、アダルトサイトなどは一切見れない仕様になっているらしい。
幼いころから持ち物全て管理され、真綿で包むように丁寧に育てられた彼は、確かに世間知らずの箱入りお坊ちゃんだ。
そんな彼にとって、総一郎との秘密の逢瀬はとても刺激的で、スリリングな物に違いない。きっと、そのドキドキするような感情を恋だと錯覚しているんじゃないだろうか?
きっとそうだ。そうに違いない。そうじゃないと困る。
そりゃ確かに、一二三の行動一つ一つが可愛く見えるし、まだ一緒に居たいだとか、キスしたいと思ってしまうのは確かだ。
だがしかし、それは明らかに恋愛感情とは違う。絶対に違う。だって自分はノーマルなはずだ。 一二三とはあくまでも期間限定の上辺だけの関係なのだ。それ以上でもそれ以下でもない。と、思う。
……多分。
だから、佐伯が言う様な感情なんて、ある筈がないのだ。
ただ、彼が可愛くて、一緒に居て楽しくて、もっと彼の色んな表情を見てみたいと、そう思っただけ。
それだけの筈だ。それなのに……。
今回のステージを観に誘ったのだって、息が詰まるような日々を送っている彼の息抜きになればと思っただけだ。
「だいたい、会ってまだ一週間も経ってないんだぞ? お互いよく知らないのに、そんなに早く人を好きになれるわけ無いだろ」
「一週間経たずに勢いでチューしたり、それ以上のやらしい事してんの誰だよ。 身体から入る恋愛だって全然アリだと俺は思うけどな」
「……っ」
佐伯の返しに総一郎はぐうの音も出ない。
「べ、別に……最後まではシてねぇし……」
「なに青臭い事言ってんだ。首筋にえっろいキスマーク付けさせてる時点でアウト!」
「や、そ、それは……っ」
咄嗟に首筋を押さえた総一郎の姿に佐伯がニヤニヤと意地悪く笑う。
「普通、なんとも思って無い奴にそう言う事させねぇよなぁ? 突っ込んで無いってだけで、二人っきりの時は乳繰り合ってんだろ。それで、西園寺さんの事何とも思ってないですって言われたってなぁ」
「う……ぅ」
反論したくても、できなかった。
天然の痴態に煽られて、性的興奮を抱いてしまったのは事実だし。理性が切れて危うく不貞を働いてしまいそうになったのも事実だ。
一二三自身も満更でもなさそうな様子ではあったし、誰とでもああいう事をする人ではない筈だ。でも……。
「お前が、いらねつーんなら明日から幻の恋人役代わってやってもいいぜ?」
「は? 何言って……」
「いや、だって。あの人フツーに可愛いし? キス出来て、ヤりたい放題出来るんなら大歓迎♪♪」
「おい……っ」
一二三を性的な対象で見ている佐伯に、総一郎は怒りを覚え、思わず起き上がって佐伯の胸倉に掴みかかった。
「ふざけんな! 誰がお前なんかに……!」
「わ、ちょ……っ、冗談だって!冗談!! ってか、そうマジになんなよ、顔こえーっての」
「……」
言われて、ハッとした。慌てて手を離し、渋々自分のベッドへと戻って腰掛ける。
「お前さぁ、自分では気付いてないみたいだけど、西園寺さん絡みだと、結構感情が表に出るよな」
「っ」
「そんなんであの人の事何も思ってません。なんて言われたって説得力の欠片もねぇぞ」
あんな冗談も受け流せないなんて、あの人の事大好きじゃん。そう言って肩を竦めながら苦笑する佐伯に、総一郎はぐっと言葉に詰まらせた。
「もう認めちゃえよ。総ちゃん♪♪ この先どうするか、なんてのは後で考えればいいんじゃね? 大事なのは今。自分がどう思ってるか、だろ?」
自分の気持ちを誤魔化すなと諭すように言われて、総一郎は思わず唇を噛んで俯いた。
確かに、佐伯の言うとおりなのかもしれない。
自分の気持ちを誤魔化して、この関係を続ける事は一二三にも悪いし、何よりも不誠実だ。
だったらいっその事、認めてもいいのではないか。
この気持ちが恋愛感情かは……まだよくわからないが、少なくとも一二三を好ましく思っているのは事実だし、もっと彼を知りたい、傍に居たいとも思う。
そして、あわよくば少しで良いから頼られたい。甘えて欲しい。なんでもしてやりたい。
出来れば自分の隣で笑っていて欲しい。なんて……。
「自分がどう、思ってるか……」
「そうそう。ま、色恋ってのは一人で悩んでたって仕方ねぇんだからさ、あの人の気持ちに応えてやったってバチは当たんないと思うけどな。 それに、早くしないとあっという間に下船しちまうぞ。日程どうりなら一緒に居られるのもあと一週間しかないんだし。仮の恋人同士じゃなくってさ、期間限定でもいいんじゃねぇの? ま、決めるのはお前達二人だけど!」
ぽんと総一郎の背中を叩いて、佐伯は自分のベッドへと潜り込む。
「……たく、簡単に言うなよ……」
その背中を見つめながら、総一郎は一二三の笑顔を思い浮かべて、小さく溜息を吐いた。
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